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SKY CAFE

 幾何学大学 ~残された者~

 

オオチャバネゴキブリ、ヤエヤママダラゴキブリ、オオゴキブリ、モリチャバネゴキブリ、サツマゴキブリ、ルリゴキブリ、ヤマトゴキブリ・・・・

桂樹は、ゴキブリのネームプレート造りをしていた。そこへ、大学警察がやってきて、幸せそうな桂樹にこう言った。

「白石桂樹さんですね」

「ああ、そうだけど」

大学警察は桂樹にそう確認すると、突然、桂樹の頭に小型拳銃を突きつけた。桂樹はとっさに振り向いて、フェイシングポーズで、拳銃の銃口に人差し指を突っ込んだ。

「何の用だ。大学警察が何故こんな事をする」

「白石桂樹、千葉と共にあの世へ逝って、あの世で詫びをいれろ」

------千葉?

「ああ、お前、あの時オレ達を誘拐した脇役じゃねーか」

「誘拐・・?何故、あの場にいなかったお前がそれを」

脇役と呼ばれた男は異変に気がついた。そう言えば、調査書によれば白石十樹とこの男が双子だったことに気がついたのである。

「どういう事だ?」

「オレ達、入れ替わってたんだよ。あの件で恨みがあるのなら十樹に言ってくれ」

実の兄を特に庇う気はなく、桂樹はそう言った。

「白石桂樹、お前が十億円の代わりに、学長代理を生け捕りしろと依頼したから、千葉は死んだんだ。それが、どれだけリスクの高い事なのか分かってたのか」

「------だから、それは十樹が・・・って、十億!?あいつ、どんだけ金持ちなんだよ!」

桂樹は、自分の身に降りかかっているこの事態と関係ない事で、驚きの声を挙げた。

「なあ、脇役、十億も持ってるなら、オレの借金の肩代わりしてくれたっていいと思わないか?」

「俺は脇役じゃないっ!柳だ」

柳は、桂樹の態度に拍子抜けしながら、トリガーに手をかけ、カチリと音を立てた。

「もう十樹だろうが、桂樹だろうが、どちらでも良い。とにかくお前等のせいで千葉は死んだんだ!」

「ちょっと待て!この体勢でトリガーを引いたら、間違いなく拳銃が暴発するぜ?オレもお前も片腕だけじゃ済まないだろうな」

桂樹は、銃口に突っ込んだ指をそのままに、柳に言った。柳は「うっ」と唸って、しばらく動かなかった。

「------千葉は何で死んだんだ」

「お前達の為じゃねーか?」

暗殺屋のメンバーに、十億は行き渡っている筈なのだ。死を覚悟した千葉が、彼らの幸せを願わなかった筈はないのだ。

力なく、拳銃から手を放した柳の手から、桂樹は人差し指一本で受け取った。

「何かありましたか?」

二人の騒ぎを聞きつけて、本物の大学警察がかけつけた。桂樹は、拳銃を大学警察に発見させまいと、すぐに服のポケットに隠した。

「何でもありません」

「・・・・・」

桂樹がそう答えると、柳は黙ったまま、頭を垂れた。

「その大学警察の服は、どうして手に入れた?」

「お前達から奪った金で、警察学校に入り手に入れた-----卒業は、一年後だ」

「オレを殺る為に入ったのか」

「------それもあるが、・・・違う、暗殺屋から離れて更生したかった。だが、千葉の事を考えるとどうしても・・・!」

柳は思い悩み、葛藤の末に出した結論だったのだろう。

「お前と心中なんて真似、千葉はしたくないと思うぞ」

ゆらりと立ち上がった柳に、桂樹は拳銃を返した。再び戻った拳銃の上に柳は涙を零した。

千葉が亡くなってから、初めての涙だった。

        

------十樹には、暗殺屋のメンバーである柳が、自分の命を狙って来た事は言わないでおこう。

そう思いながら、宇宙科学部の研究室へ戻った。クローン同様、ゴキブリ王国の建設も順調に進み、後は桂樹しか出来ないゴキブリの移動を行うだけになっていた。

「いつ、誰に襲われるか分かったものじゃない」

研究室で、そう呟いている桂樹は、来る時べきの為、ラジオ体操を始めた。尤も、それで筋力がつくはずもないのだが。十樹は、そんな桂樹を呆れながら見て言った。

「ゴキブリ王国の建設に反対するデモ行進が、大学内で行われるそうだ。桂樹、私はそろそろ対応するのに疲れているんだが」

「それぐらい、何とかしといてくれよ。こっちは命狙われて・・・」

「命・・・?狙われたって桂樹、お前・・・」

「あ、ああ何でもねぇ」

つい先程、十樹に内緒にしておこうと思っていたのに、十樹の愚痴に愚痴で返してしまった。

「ゴキブリ王国に反対する人間が、とうとうそこまで来たか」

「・・・・・」

何やら誤解をしている十樹に、桂樹はほっとした。しかし、十樹の代わりに殺されそうになったのは、もう二度目だ。第三の刺客がいつ現れてもおかしくない現状に、桂樹は苦笑いをした。

「桂樹、そう言うことなら、私はこのメールの主を放っておく訳にはいかない。何とかフォローしてみよう」

「ああ」

十樹は、放ってあった苦情メールを返信する為に、パソコンデスクに向かった。

桂樹は心の中で思う。 十樹は、一体何人から命を狙われているんだろう、と。

「そう言えば、今日は研究室が静かだと思ったら、カリムとリルがいないじゃないか。どこに行ったんだ?」

「最近、あの二人は度々、以前いた村に戻っている様だよ。何をしているかは知らないが」

十樹は、いつも研究室の中を走り回っている、カリムとリルが居ない事で、何だか落ち着かない様子だった。

------まさか、光虫になったまま、消える道を選ぶなんて事は。

「あの二人に限って、そんな事はありえないか」

「ん?何だ?」

「何でもねー」

         

カリムとリルは光虫になって、本物のカーティス村に来ていた。光虫の姿では、お互い会話をする事は出来ないが、僅かな光の瞬きで合図をおくる。幾何学大学へ行ってから、何度かそれぞれの家庭の様子を見に行っていた。

リルの母親の元へ行くと、母親は精神的に不安定になっており、毎日リルの写真を見つめては、アルコール度数の高い酒を飲んでいた。 そんな母親を心配して、何かに気を紛らせられないかと、母親の周りをくるくる飛んで回ったり、肩に寄り添ってみたり、話相手になってみたりしている。

「ああもう・・・煩い光虫ねぇ!」

酔った母親は、そんなリルの気持ちも知らず、何度も光虫を捕まえようとするのだが、中身のない発光体故に、それは不可能だった。 リルの父親は、幼い頃に病死しており、母親の体調を気遣う者は誰も居ない。元々、気性の荒い性格で、近所の住人が様子を見に来ても、 リルが居なくなってからは、ただ人を疑い怒鳴るばかりで、皆、辟易していた。

(お母さん)

そんな母親の姿を見て、リルは悲しくなったが、そこにいるだけで、まだ心は救われていた。

「ふふ・・・貴方がリルだったらいいのに・・・」

そして、すぅっと眠ってしまった。

カリムとリルは、次にカリムの家へ向かった。 すると仕事に出掛けようとする父親と、家の玄関先で出会った。父親は母親に行ってきます、と言うと、額に軽くキスをして、母親はそれを見送っていた。

(まるで新婚気分だな・・・)

カリムはそう思いながら、家の中へ入って行った。

「まぁ、また光虫?最近、良く来るわね」

母親が広げた手のひらの上で、カリムとリルは、くるくると回った。

「あの子も、これを見たら楽しい気分になれるかしら・・・」

母親は、窓際に置いてあるカリムの写真を手にとって、小さくため息をついた。

母親は、早く出ていらっしゃい、と写真に語りかけた。

         

その後、カリムとリルは神隠しの森から宇宙科学部の研究室へ戻った。何度行っても、カーティス村で二人の姿は光虫となってしまう。

「どうにかならないかなぁ」

二人は幼い頭で、一生懸命考えていた。

その時、二人はまだ知らなかった。 神隠しの森に、異変が起きている事を------

その夜、風がひゅうひゅうとうねりを上げていた。

--------台風が来るのだろうか。

村の人々は、家の中から外を見た。すると、幻想的な情景を、神隠しの森の方額に見たのである。 月も星の光もない、その中で、一斉に飛び立つ光虫の群れを。