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その頃、研究室では、ようやくカリムやゼンが起きだし、リルがいない事に気づいて、十樹たちを起こしだしていた。
「十樹、リルがいないんだ!起きて」
肩を、ゆさゆさ揺り動かして、カリムは皆を起こした。ゼンは大きなあくびをしながら、全ての部屋を見て周りリルを探した。
「やっぱいないや。リルーかくれんぼは、もう終わったぜー」
「どこに行ったんでしょうか?」
橘が、一緒に探していると、第四研究室に服が脱ぎ散らかしてあるのを見つけた。
十樹と桂樹を呼ぶ。
「これ、多分、リルの服だよな」
桂樹は、服を拾いあげた。
カリムやゼンと、同じ形状の服だ。二人は顔を見合わせた。
「じゃあ、リルは一体今、何を着てるんだろう?」
カリムが、疑問を口にした時、十樹に一抹の不安がよぎった。十樹は、バタンと研究室にあるクローゼットの中を見て、それを確信した。
「服が一着ない」
「服ってまさか・・・」
十樹と桂樹が、一緒にクローゼットの中を探すが、その服は見つからなかった。
「まさか、あの服を着て外に出たのか!?」
桂樹がそう言うと、十樹は青ざめて、慌てて研究室から出ていった。
その姿を、カリムとゼンは見送って。
「なぁ・・・あの服って何だ?」
桂樹に問いかけた。
「知りたいか?」
頷く二人に、桂樹は少し頭を悩ませて言った。
「じゃあジャンケンで三回、オレに勝ったら教えてやるよ」
「分かった!絶対だぞ」
桂樹は笑って誤魔化したが、内面は穏やかではいられなかった。二人とジャンケンをしながら、リルを心底心配していたのである。
☆
食堂の片隅では、神崎とリルのかみ合わない会話が、繰り広げられている。 十樹の不正を暴くためのデータとして、神埼とリルの会話がしっかりと録音されているのだが、神埼は、その空しさに電源をぷつりと 切った。
「だからね、動物が変でキャーってなってね、リル怖かったけど頑張ったの」
「・・・・・」
もはや、相槌を打つ気にもならず、神埼はコーヒーを一口含んだ。
「でね、でね」
「-----リルちゃん」
「何?おじさん」
ようやく、会話の糸口を見つけて、神埼は言った。
「僕に教えて欲しい事って何かな?」
肩肘をテーブルにつけて、カチャリとコーヒーカップを置く。
「神埼は、偉い人でしょ。だから、帰り方を教えてほしーの!」
「どこへ帰るの?」
「ええっとねー」
リルは、ポケットに入っていたはずの地図を神埼に見せようとしたが、服を着替えていたことに気づいて、しゅんと小さくなった。
「リルの村に帰りたいの・・・・お母さんもきっと心配してる」
「村・・・・・」
神埼は、村、という俗称を知らないため、「ふぅん」と眉をひそめた。
神埼が、この大学に入る前は、どこから来るとも知れない、こういった移民が多かったらしい。しかし、一部の人間が、メインコンピューターに侵入したり、騒ぎを起こし混乱を招いたため、その手の侵入者に対して記憶処理を行ってきた。有害とみなされる者には、全て神埼グループの手により、葬られて来た。 それだけに、当然、影で汚いこともしてきたのだが・・・リルを前にして、神埼は迷っていた。
------この子は有害?無害?
「ええっとねー、リル、このご飯、十樹たちのトコ持ってくの」
ほわわんと、背景に小花を散らしているようなリルを有害とみなす者は、恐らくいないだろう。-----しかし。
「あっ、ここのご飯代は、おじさんが払ってくれるよね?ありがとー」
リルはそう言うと、山ほどの食料を持って、食堂を出て行こうとした。この時、神埼の中で、何かがぷつり、と切れた音がした。
前言撤回、有害決定!(無駄な時間一時間三十六分)
この娘は、きっと何も知らず「実験体の服」を着ているのだろう。それを利用しない手はない。
「-----リルちゃん、帰る方法はあるよ」
リルは、出ていく足をとめて、振り返り神埼を見た。
「おにーさんに、ちょっとついて来てくれるかな」
☆
宇宙科学部の研究室を出て、十樹は足早に食堂へと向かった。
-----間に合ってくれるといいが。
十樹は、食堂のパスを通し、中へ入ると、昼休み以前の食堂はがらんとしていて、リルはいなかった。代わりに大量の食料がのったテーブルが、一つ残されていた。同じメニューのものが、いくつもあり、数えてみたところ、丁度、研究室にいるメンバーの分だと気づく。十樹は、食堂で働いている調理師に話を訊いてみた。
「ああ、その女の子なら、先刻、神埼先生と一緒に出て行ったよ」
「・・・・そうですか」
神埼は、常に十樹の行動を監視している。研究室が盗聴されていた事を考えれば、リルが研究室を出た時点で、既に後をつけられていたのだろう。
------無事であってくれ。
十樹は、そう祈りながら食堂を出た。