Now Loading...

Now Loading...

SKY CAFE

 幾何学大学 ~罠~

 

その頃、研究室では、ようやくカリムやゼンが起きだし、リルがいない事に気づいて、十樹たちを起こしだしていた。

「十樹、リルがいないんだ!起きて」

肩を、ゆさゆさ揺り動かして、カリムは皆を起こした。ゼンは大きなあくびをしながら、全ての部屋を見て周りリルを探した。

「やっぱいないや。リルーかくれんぼは、もう終わったぜー」

「どこに行ったんでしょうか?」

橘が、一緒に探していると、第四研究室に服が脱ぎ散らかしてあるのを見つけた。

十樹と桂樹を呼ぶ。

「これ、多分、リルの服だよな」

桂樹は、服を拾いあげた。

カリムやゼンと、同じ形状の服だ。二人は顔を見合わせた。

「じゃあ、リルは一体今、何を着てるんだろう?」

カリムが、疑問を口にした時、十樹に一抹の不安がよぎった。十樹は、バタンと研究室にあるクローゼットの中を見て、それを確信した。

「服が一着ない」

「服ってまさか・・・」

十樹と桂樹が、一緒にクローゼットの中を探すが、その服は見つからなかった。

「まさか、あの服を着て外に出たのか!?」

桂樹がそう言うと、十樹は青ざめて、慌てて研究室から出ていった。

その姿を、カリムとゼンは見送って。

「なぁ・・・あの服って何だ?」

桂樹に問いかけた。

「知りたいか?」

頷く二人に、桂樹は少し頭を悩ませて言った。

「じゃあジャンケンで三回、オレに勝ったら教えてやるよ」

「分かった!絶対だぞ」

桂樹は笑って誤魔化したが、内面は穏やかではいられなかった。二人とジャンケンをしながら、リルを心底心配していたのである。

         

食堂の片隅では、神崎とリルのかみ合わない会話が、繰り広げられている。 十樹の不正を暴くためのデータとして、神埼とリルの会話がしっかりと録音されているのだが、神埼は、その空しさに電源をぷつりと 切った。

「だからね、動物が変でキャーってなってね、リル怖かったけど頑張ったの」

「・・・・・」

もはや、相槌を打つ気にもならず、神埼はコーヒーを一口含んだ。

「でね、でね」

「-----リルちゃん」

「何?おじさん」

ようやく、会話の糸口を見つけて、神埼は言った。

「僕に教えて欲しい事って何かな?」

肩肘をテーブルにつけて、カチャリとコーヒーカップを置く。

「神埼は、偉い人でしょ。だから、帰り方を教えてほしーの!」

「どこへ帰るの?」

「ええっとねー」

リルは、ポケットに入っていたはずの地図を神埼に見せようとしたが、服を着替えていたことに気づいて、しゅんと小さくなった。

「リルの村に帰りたいの・・・・お母さんもきっと心配してる」

「村・・・・・」

神埼は、村、という俗称を知らないため、「ふぅん」と眉をひそめた。

神埼が、この大学に入る前は、どこから来るとも知れない、こういった移民が多かったらしい。しかし、一部の人間が、メインコンピューターに侵入したり、騒ぎを起こし混乱を招いたため、その手の侵入者に対して記憶処理を行ってきた。有害とみなされる者には、全て神埼グループの手により、葬られて来た。 それだけに、当然、影で汚いこともしてきたのだが・・・リルを前にして、神埼は迷っていた。

------この子は有害?無害?

「ええっとねー、リル、このご飯、十樹たちのトコ持ってくの」

ほわわんと、背景に小花を散らしているようなリルを有害とみなす者は、恐らくいないだろう。-----しかし。

「あっ、ここのご飯代は、おじさんが払ってくれるよね?ありがとー」

リルはそう言うと、山ほどの食料を持って、食堂を出て行こうとした。この時、神埼の中で、何かがぷつり、と切れた音がした。

前言撤回、有害決定!(無駄な時間一時間三十六分)

この娘は、きっと何も知らず「実験体の服」を着ているのだろう。それを利用しない手はない。

「-----リルちゃん、帰る方法はあるよ」

リルは、出ていく足をとめて、振り返り神埼を見た。

「おにーさんに、ちょっとついて来てくれるかな」

         

宇宙科学部の研究室を出て、十樹は足早に食堂へと向かった。

-----間に合ってくれるといいが。

十樹は、食堂のパスを通し、中へ入ると、昼休み以前の食堂はがらんとしていて、リルはいなかった。代わりに大量の食料がのったテーブルが、一つ残されていた。同じメニューのものが、いくつもあり、数えてみたところ、丁度、研究室にいるメンバーの分だと気づく。十樹は、食堂で働いている調理師に話を訊いてみた。

「ああ、その女の子なら、先刻、神埼先生と一緒に出て行ったよ」

「・・・・そうですか」

神埼は、常に十樹の行動を監視している。研究室が盗聴されていた事を考えれば、リルが研究室を出た時点で、既に後をつけられていたのだろう。

------無事であってくれ。

十樹は、そう祈りながら食堂を出た。