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「はぁ!?亜樹が目覚めた!?」
橘からの連絡に、桂樹は驚いた。
「-----このタイミングでか」
携帯の端末を手に、二人は運の悪さを痛感していた。今は特別病棟の中である。十樹は、一刻も早く研究室に戻りたい心境を抑えて、橘にある指示をした。
「君は、そのプログラム通りに動いてくれればいい」
「お、おい、いいのか?そんな大事なことを任せて」
十樹の言い様に、桂樹は警笛を鳴らした。
「今は彼しかいない」
覚悟を決めたように、十樹はそう言った。
☆
草原を越えて、二人が辿り着いたのは、小さなコミュニティだった。特別病棟の患者が、十数名そこに集まっていた。
「なぁ、リル、一体どうしちまったんだよ!」
聞き覚えがある声が二人の耳の飛び込んできて、十樹と桂樹は驚いた。
「何でこんな所にいるんだ?ゼン」
「ああ、十樹も桂樹もいいトコに来た・・・っ!リルがっ!」
ゼンが、訴えようとしている内容を、二人はすぐに察した。おそらく神埼は、リルの記憶を操作して、ここに放り込んだのであろう。
「リル・・・私たちのことは覚えているかい?」
リルは、ぷるぷると首を振って言った・
「でも、リルは、何か大切な事を忘れちゃったの・・・それは忘れちゃいけない事だったの」
「そうだね、それを覚えているだけでも十分だよ」
十樹は、くしゃりとリルの頭を撫でた。
「リル・・・」
ゼンが、心細そうな声で名前を呼ぶ。
「おじさん達、リルのこと知ってるの?何でかなぁ」
「相変わらず、「おじさん」かよ☆」
「なぁ、リルは治るのか!?大丈夫なんだろ!?」
「神埼の研究室にもぐり込めば、治せると思うが」
十樹が言った。
思えば、あの研究室で、行われている行為そのものが、酷くえげつない事だと言わざるを得ない。こうして一体何人の記憶を消してきのだろうか。全ては、大学内の治安維持の為、と言うが、リルはまだ幼く、この大学内に於いて問題を起こす様な子ではないのに。
-----そう、きっとゼンの父親も同様だろう。
「ゼン」
「何だ?」
「お父さんに会いたいかい?」
「お、おい、十樹」
「これが、ここに来る最後かも知れないんだ。ここにゼンが来たのなら、話しておこう」
桂樹は、本来なら記憶を戻してから、ゼンに会わせてやりたかった。しかし、亜樹が先に目覚めてしまったことから、何度もここに来る余裕がなく、リルとゼンをここから連れ出すのが精一杯だ。
「まさか、オレのとーちゃん、ここにいるのか?」
「------案内しよう」
そう言って、十樹と桂樹は、ゼンの父親のいる森の方へ向かって歩き出した。
「ほら、リルも行くぞ」
ゼンは、リルの手を引っ張り、二人の後を追いかけた。リルは、きょとんとしていたが、黙ってゼンについて行った。
☆
橘は、研究室にあるパソコンを前にして、黒いファイルを手に持ち、忙しく指を動かしていた。
「メインコンピューターに接続、パスワード*****」
キーボードを打ち、表示される画面の内容を見て、橘は驚愕していた。メインコンピューターには、ハッキングが不可能な様に何重ものロックとパスワードで固められている。十樹が指示したファイル通りに打ち込むと、それをまるで無視するかの様に、この大学の中枢である内部機密まで入り込めてしまうのである。橘は、戸惑った。
「ええ、ええ・・と、いいんですか、これは」
黒いファイルに記載されている通りに、進めていくと、不正に大学内の住民票を増やし、白石亜樹という名の研究員が生まれてくる。この大学内に入る為の必要な条件が全て、パソコンの中に予め入力されているのだ。
「橘さん、お茶はいかがかしら?」
「えっああ、ありがとうございます」
受け取ったお茶を飲もうとして、橘は、はっとした。
「あ、亜樹さん!?」
橘が振り返ると、先程まで実験体だった亜樹が、研究員の服を着て、そこに立っていたのである。
「僕が着替えさせたんだ」
「何だ、カリム君が」
「でも、このお姉さん、何か全部分かっているみたいだ。生まれたばかりなのに」
「まさか・・・」
二人で亜樹を見ると、亜樹は穏やかな笑顔を返した。
その時、研究室のチャイムが鳴り、橘は操作していたパソコンを慌てて閉じた。
「監査だ。部屋に入れなさい」