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「桂樹、お前は知っているんだろう」
研究室から出ると十樹は桂樹に言った。
「何をだ?」
「とぼけるな、特別病棟の患者の中にゼンの父親がいることと-----」
「記憶操作のことか?」
「------分かっているなならいい・・・いくぞ」
「またか」
「また?」
十樹の言いたいことは分かるが、特別病棟に二人で行くとなると当然・・・・。
「服と鍵を貸してくれないか」
「またぁ?」
当然、瑞穂に頼むことになり、桂樹は、十樹の後ろで小さくなっていた。
「今度で三度目よ。しかも二着もだなんて」
「三度目?」
瞬間、十樹は首を傾げたが、さしたる問題でもない為か、そのまま会話を続けた。
「大事な用なんだ。頼む」
「もう!面倒なことに巻き込まないでよ」
言いながら、医局のクローゼットを開けて、二着分の患者の服を十樹に手渡した。
「次はないわよ。それとランチじゃなく豪華ディナーに変更ね。桂樹くんもね。それぞれ私に奢ること!」
「はぁ!?」
小さくなっていた桂樹は、想定外の瑞穂の答えに驚いた。
(くっ!せっかく、十樹に奢らせようと思ったのに)
十樹に変装して、瑞穂に患者の服を借りたことが水の泡になってしまった。桂樹は頭の中で、自らが開発した、ゴキブリ製品の売り上げを気にしていた。
「十樹」
「私からたかるなよ」
「ケチだな、お前」
「お前にケチ呼ばわりされるのは心外だ。今までどれだけお前に奢ってやったと思ってる」
大学から支給されている経費や、研究成果から考えても、桂樹より十樹の方が断然お金を持っている。宇宙創造とゴキブリ化粧品の開発を比べること事態、論外であると思うが。 二人で、通路途中のトイレで患者の服に着替えると先程と同じように特別病棟へとつながる鉄格子の鍵を開けた。
☆
再び研究室。 うっすらと覚め行く意識の中、亜樹は夢を見ていた。耳に、こぽこぽと自身の呼吸音が響いているのを亜樹は聞いた。幼き日に十樹と桂樹という双子の兄がおり、その二人の間で、いつも二人のケンカの仲裁をしていた夢を見ていた。
「亜樹、今度、僕たちは「幾何学大学」へ行くことになったよ」
「幾何学大学?」
亜樹は、初めて聞いた言葉に首を傾けた。両親が、後ろで泣いている。
「息子さんは、必ず良い研究員になれます。貴方たちの暮らしも保証しましょう。これは大変喜ばしいことですよ」
誰だか知らない大人たちが、両親にそう説明していた。
「十樹も桂樹もいなくなっちゃうの?お父さん、お母さん」
僅か十歳という年齢で、十樹と桂樹は両親や妹から別れ研究室に住むことになった。
「亜樹、僕たちが大学へ行けば、好きな研究をさせて貰えるし、この家にもお金が入るんだ」
亜樹は、その話を聞いて泣いた。お金なんかの事より、二人と一緒にいられる方が、余程良かった。
「じゃあ、亜樹も行く」
「駄目なんだ・・・そうだ、亜樹が十歳になった頃、きっと僕たちと一緒に研究が出来るよ」
「亜樹・・・・オレたち待ってるから」
「お兄ちゃん達、亜樹を一人にしないで・・・行っちゃ嫌」
外を見ると、大型の高級車が十樹と桂樹を迎えに来ていた。
「じゃあ、亜樹、お父さんとお母さんの事をよく聞いて、いい子にしてるんだよ」
「行っちゃ嫌-----嫌-----っ!」
亜樹は、二人の乗った高級車を、必死に追いかけた。しかし、結局、亜樹は途中で転んで小さな自分は置いていかれて、車はすぐに見えなくなった。亜樹は、何日かかけて必死に調べ上げ、何とか幾何学大学への道を見つけたのであった。そして、大学へ向かう道中で、 白いエアカーが私を。
「------!」
ピーピーと機械音の鳴る中で、亜樹は目を覚ました。青白い光の中、呼吸の可能な水に満たされたまま、亜樹は目の前にある水槽のガラスを軽く手で押した。
「ここは・・・・?」
シューと音を立てて、ガラスの水槽が手前に開いた。
そして考える。さっきの夢はなんだったのだろう。私は確か-----
「橘、起きて!起きて!」
カリムは、眠っている橘に声をかける。
「ん-----」
橘は、睡眠導入剤が今更利いていて、なかなか目を覚まさない。カリムは何度も揺すって橘を起こした。
「・・・・どうかしたんですか?」
「あのお姉さんが・・・・!」
ゆらり水槽の前で、不思議そうに立っている亜樹に気づいて、橘は慌てふためいた。
「え、ええっ!?」
「私は-----」
「亜、亜樹さん!?」
十樹の説明では、まだ亜樹は目覚めない筈だが、何らかの作用で、時期が早まってしまった様だ。
「貴方は誰なの」
「し、白石先生に連絡します」
少し待っていて下さいと、言い残すと、橘は別の部屋に行ってしまった。