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シキが全てを打ち明け終え、チビカエデの顔色を伺った。
チビカエデは悲しむ訳でもなく、ただ厳しい表情でシキを見つめている。
すると、チビカエデは何故か小さな自分の手をシキに差し出した。
「手、かして」
「え……? どうして……」
「いいから」
怒ったような口調でチビカエデは布に埋まっていたシキの腕を取り、掌を重ね合わせる。 そして顔を近づけ、額も合わせた。
一体、何をするつもりなのだろう。
「我、この地を治める者。汝と生を共にし、我が命を汝の糧とすることを――」
「カエデ様!!」
シキが気付いた時には、もう既に遅かった。あの時と同じように、体中が温かいものに包まれる。
離れようとしても、チビカエデが両手に力を入れ、放そうとしない。
「契約する。我が名はカエデ」
呪文を紡ぎ終える。
温かな光がシキとカエデから消えると、ようやく手を放した。
シキはチビカエデのとった行動を愕然とした様子で、しばらく動けずにいた。
それに反して、チビカエデはいつもの笑顔に戻っている。
「これでもう大丈夫だよ。シキ、良かったね」
まるで風邪が治ったときのような、そんな気軽さ。
飄々とした態度のチビカエデに、瞬時に怒りがこみ上げた。
「あなたは、何て馬鹿なことを……!!」
チビカエデが唱えた術は、カエデが以前自分にかけた、寿命と引き換えの――
「今すぐ、契約を解いて下さい!」
心が焼け付きそうな程の怒りがシキの体を満たす。
その様子を見たチビカエデが、再び表情を引き締めた。 それを見た瞬間、背筋がぞくりとする威圧感を全身に感じる。
今まで、そんな顔をするチビカエデを、シキは見たことがなかった。
「シキ」
名前を呼ばれるだけで、びくりと肩が震える。
目を反らしたいたいのに、反らすことが出来ない。 反らすことを許されない。
「次代の長たるカエデが命じます。シキ、私と共に生きなさい」
厳かに、命じる口調でシキにそう告げる。
口を開こうとすると、反論は受け付けないと言わんばかりに、さらに言葉を重ねられた。
「私と共に生き、そして笑顔でいなさい。生涯、私の補佐として、務めなさい」
「……ですが」
そんな事が、自分に許されるわけがない。
誰かに命を分けてもらわなければ存在することすら出来ない生。
そんな生き方を、していいはずがない。
シキが口ごもっていると。
「カエデは次代の長になるの。その長が言う事に、従えないの?」
次代の長になる、とはっきりと口にしたチビカエデに、シキは驚いた。
生まれてまだたった二週間しか経っていないチビカエデが、早くも次代の長としての自覚を芽生えさせて いたのだ。
この二週間で、チビカエデも考えたのかもしれない。
ところが、自分はどうだろう。いつまでも過去に囚われて、動けないどころか、考えることを拒否しようとしている。
「シキはカエデが長になるために、必要なの。ここに居て欲しいの」
チビカエデはシキの手に両手を重ねた。 求められるように。
「もう一人のカエデが命を削ってまで守った、貴方の魂を無駄にしないで」
――生きていていいのだろうか
こんな自分でも、カエデの側にいていいのだろうか。
チビカエデの言葉が、胸にゆっくりと溶けていく。
気付けば、シキはカエデに身を任せ、涙を流していた。 ずっと我慢していたものが、せきを切って溢れ出す。
「もう一度、命じます。シキ、私と生きてください。いいですね?」
再度、チビカエデがシキに命じる。 カエデが次代の長として、自分に生きろと言うのならば、従わなければならない。
シキはチビカエデの肩に顔を埋めたまま、頷く。
「…………はい。生涯、お供します」
―― いつまでも
その日、シキはチビカエデに背を抱かれて泣き続けた。
そんなシキに、チビカエデは夜が明けるまで、辛抱強く付き合ってくれた。