Now Loading...
---------------------------- ---------------------
「もう体調はいいのか?」
「はい。ご心配おかけしました」
翌日。 シキは目を赤く腫らしながらも、すっきりとした気持ちで、タイカにお辞儀する。
「別に心配なんてしてねぇよ」
つん、と顔を背けているタイカの代わりに、彼の補佐が「タイカ様、ずっとシキさんを心配されて、森の中をうろうろ していたんですよ」と、こっそり耳打ちしてくれた。
やはり、彼はシキのことを心配してくれたのだ。
お礼を言わなければならないと、口を開きかけたが。
「言っておくが、ちっこいのにあの術を教えたのはオレだが、オレは何もしてねぇぞ」
シキの言葉を予測したかのように、タイカは言う。
だが、タイカがチビカエデに術を教えたのは事実だ。
「はい。ありがとうございます」
お礼をすると、案の定、苦い顔をされた。
タイカは一瞬こちらに目を向け、視線を前に向けた。
「オレがしばらくここの長なんだ。こんなくそ忙しい時に、一人でも欠けられたら、困るんだよ」
「…………はい」
必要とされている、そのことが嬉しくて、思わず涙声になる。
「おい。泣くなよ」
「泣いてません」
鼻をすすっている時点で、嘘をついたことはばればれだ。
瞳にわずかに溜まる涙を拭っていると。
「シキー! またあっちのほうで喧嘩してる人がいるよー」
どうやって登ったのか、高い木の枝からチビカエデが顔を出す。
「ほら、仕事だ。行け」
「はい!」
タイカに背を押され、チビカエデの許へ向かった。
――ここから数十年後、かつて長門と呼ばれた地に、幼い少女が長として立つことになる。
その少女の隣には、紫色の髪をした小鹿の霊が常に側に控え、一生を見守ったという。
少女は自身の命の半分を、その補佐を留まらせるために分け与えたらしいが、少女は歴代の長の誰よりも 長く生き、森を治めた。 それは先々代、先代、二代にわたる長達が起こした奇跡ではないかと。
霊達の間でそう噂された。
しかし、少女が長として立つ日は、まだ先の話だ。
「カエデ様!」
果てなく続く、遠い道のり。
狂わしく愛おしいこの地で、彼らは未来へと踏み出していく。
――シキ、オレはお前が
大好きだ
--------------------END 絵/文 へな