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暗い闇の中、シキは夢を見ていた。
あれは自分がカエデの補佐になってから二十年が経った時のこと。
シキは仕事の疲れなのか、倒れてしまったことがあった。
「お前、最近仕事ばかりしていただろう。……あまり無理をするものではない」
「はい……すみません」
カエデはシキの熱を計るように、自分の額に手を当ててくる。 触れて来るカエデの手は、ひんやりとしていて気持ちがいい。
「オレは今まで体の調子をあまり崩したことがないものだから……参ったな。どうすればいいものか……」
「カエデ様、いつも昼寝していられますからね」
くすっと笑うと、カエデは安堵したように目を細めた。
「そんな口がきけるのなら、大丈夫だな。……そうだ霊薬を持って来よう。ちょっと待ってろ」
そう言ってカエデはシキの側を離れようとした。 が、急に不安になり、シキはカエデの手を握る。
「どうした? シキ」
カエデが驚いた顔でシキを見る。
今、カエデに離れてほしくなかった。
「……さっき夢を見たんです。カエデ様が消えてしまう夢……」
シキが夢の出来事を語り終えると、カエデは苦笑する。
「馬鹿だな。オレがお前を置いて行くわけないだろう?」
「ねぇ。カエデ様」
「ん?」
「夢の中のカエデ様は、どうして僕に何も言わずにいなくなってしまったんでしょう。……僕のことが嫌いになったんでしょうか?」
訊いてみたのは、本当に自分がカエデの役に立っているのか、分からなかったからだ。
本来、補佐は主の身を危険から守れるぐらい、力量を持った者がなるものだ。 だが、元小鹿であったシキに、そんな戦闘能力は持ち合わせていない。
シキが出来ることといえば、カエデがためた事務仕事を処理することぐらいのもの。 自分がカエデの役に立っているという実感がなかった。
シキの問いに、カエデは少し考えた後、口を開いた。
「……さぁ。夢の中のオレが一体、何を考えていたかは分からないが。……少なくとも、シキのことが嫌いになったわけではないと思うよ」
「本当ですか?」
「あぁ」
それを聞いて、ほっとした。 現実にいるカエデにそう言ってもらえただけで、安心感が違う。
「ほら、体調が良くないんだから、もう少し寝ろ。……そうだ、シキ。目を閉じて。眠れるまじないをかけてやろう」
言われた通りに、シキは目を閉じた。
すると、カエデが額をシキの額にあわせる。 そうされると、あまりに心地よくて再び眠ってしまいそうだった。
「我、この地を治める者――」
カエデが何事か呪文を紡いでいる。 その先は、よく聞き取れない。
意味は分からなかったが、額を通して温かいものが自分の中に流れてくるのを感じた。
眠るつもりはなかったのに、カエデの手が瞼に触れた途端、睡魔に襲われた。
「シキ、オレはお前が――」