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「ユキ……。やったのか」
刀についた血を振り払い、カエデは鞘に収めた。カエデの背後には、敗北した無残な挑戦者の体が辺り一面に散らばっている。
だが、全員気を失っているだけで、誰一人殺してはいなかった。
ユキが結界を張れば、敵はもう町へは入って来れない。 新たな援軍が来たところで、結界に阻まれるだけだ。
カエデはもうここに立つ必要はない。
「ユキ。聞こえるか?」
ユキに連絡を取ろうと、呼びかける。 だがいくら返答を待っても、ユキは呼びかけに応じなかった。
「……ユキ?」
いつもなら、カエデの声にユキはすぐに反応してくれる。 長門の領地内であれば、能力は使えるはずなのだが。
カエデは不安に駆られ、ユキの元へと急いだ。
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人のいない、静けさが残る場所に座り込み、ユキは安堵の息をついた。
――終わった
力の限りを尽くし、結界を張り終えたことで虚脱状態だった。 だが身体の疲労とは裏腹に、ユキの心は穏やかだ。
これで、民は救われる。そう思うと、笑みがこぼれた。
座っていることも辛くなり、ユキは地面に頭をつける。 自分の体から一つ、また一つと、小さな光りが天へ昇っていく。
終焉が近づいていることをユキは感じた。
――私は、あの人との約束を守れたのかしら
人間が生きることも出来ない程の長い時間、自分はその人との約束を守り続けた。
長になどなりたくなかったユキに、国の未来を託して、死んでいってしまった彼。 人間だったその人は、限られた寿命により、未来を見据えることが出来なくなってしまった。
この国を誰よりも愛おしんだ彼の代わりに、ユキは守っていくことをあの日――カエデが生まれた日に 誓ったのだ。
――結局、私はカエデとの約束を守れなかったな
必ず帰るとユキは約束したのに。 一方の約束を果たし、もう一方は果たせない。 どちらも叶えたかったのに、叶わない。
数百年前に死んだ彼とよく似た少年。 こんな自分を少年は慕ってくれた。
約束を果たせなかったユキを、許してくれるだろうか。
(あぁ、出来るなら、もう一度会いたい)
会って、伝えたいことがまだある。 ちゃんと瞳を見て、伝えたい。
(出来るのなら……)
心の中でそう願った時。
「――ユキ!!」
会いたかった人物が、自身の名を呼んだ。