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―― 一体、何が起こっている
一番高い木の上に立ち、カエデは町を見下ろしていた。
先程まで、ユキの力が加わった結界は順調に形を成しつつあった。 が、それが突然、消えてしまったのだ。
ユキや呪術師達が失敗するとは思えなかった。
――だとしたら
カエデの中で、心臓がどくどくと波立つ。 嫌な予感がした。 このままでは、取り返しがつかなくなる。そんな予感。
森を出てユキの様子を見に行こうと、体が動きかけた。
『――カエデ!!』
自分の頭の中に響く声。 それは聞き慣れた人物のものだ。
「ユキ、ユキか!?」
彼女のテレパシーに、カエデは呼びかける。とにかく、ユキは未だ無事でいることに安堵した。
ところが、彼女はそうでもないらしい。 声に焦りがにじみ出ている。
『カエデ! 石見の兵が長門に攻め込んでくる! 私が結界を張るまで、兵を足止めして!』
「攻め込んでくる? 結界を張るって、何故 今結界が張れていない?」
『呪術師の中に、石見の手の者が紛れ込んでいたの! その人が、私達を邪魔して……!』
とにかく、今は非常事態らしい。
カエデはいまひとつ状況が飲み込めなかったが、とりあえず頷いた。
「分かった。……だが、君は大丈夫か?」
『私のことはいいから、早く!』
それきり、ユキとの交信は途切れた。
「ユキ、ユキ!?」
どうやら、しのごの言っている場合ではないようだ。
カエデは木から飛び降り、兵が向かってくるだろう場所へと向かった。
走りながら、カエデはユキが口にしていたことを考える。
ユキは、「私が結界を張るから」と言っていた。 私、ということは、ユキが一人で結界を張るという意味だ。 呪術師達と力を合わせて、ようやく成しえることを一人で。 それは、ユキの身に負担がかかることではないのだろうか。
今から自分が戦地へ赴くにもかかわらず、カエデの頭にはそのことばかりが巡る。 早く兵達を倒し、ユキの元へ駆けつけなければならない。
――ユキ、無事でいろよ
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交信を切ったユキは人気のない場所に立ち、瞳を閉じた。 これで、少しの間、時間が稼げる。
カエデの強さは、誰よりもユキが知っていた。
(あとは、私がやるだけ)
自分の内にある力に集中させ、両掌を合わせる。数時間、同じ体勢でずっと力を練っていたため、足元がふらつく。
力が足りない。
だが、やらなければならない。
国に住む人々を守るためには、こうするしか、方法が残されていないのだ。
長になる前、ある男性が言った言葉。
――ユキ。どうか、国を守ってくれ
その人と、約束をした。 今こそ、それを果たさなければならないのだ。
――ごめんなさい、カエデ。約束を破る私を許して
一瞬、脳裏に浮かんだカエデの姿。 それを振り切り、ユキはひたすらに力を練り続けた。