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SKY CAFE

 シキ ~君のために~

 

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「は? 今 何て言った?」

 

翌日。 ユキが口にしたことに、カエデは聞き間違いではないかと、再度 訊き直した。

「昨日、ようやく助力の件が可決したの。私は明後日、町に下りるわ」

目を剥くカエデの一方、ユキは可決したことで、少し嬉しそうだった。

 

先代長のこともあり、今回のことは見送られるだろうと思っていたのだが。 まさかあの頑固な長老達が了承するとは。 カエデはにわかには信じられなかった。

 

―― ユキはどんな魔法を使った?

カエデの頭の中は、疑問符で一杯だった。

「それで、私が町へ行っている間、カエデには森を守っていてほしいの」

「……ちょっと待て、ユキ。君、本当に行くつもりか?」

急な話にカエデはついていけず、ユキにもう一度 確認をとる。

重大な事のはずなのに、「えぇ」と頷くユキの返事はあまりにも軽い。

「だから、お留守番よろしくね」

「だから待て。何故 オレが行けない?ユキが行くんだったら、オレも行く」

直接 戦場へ赴くわけではないが、仮にも戦場と十分なりうる場所にユキ一人で行かせたくはない。

だが、カエデの申し出に、ユキは首を振った。

「駄目よ。もし何かあった時、森を守る人がいなくなってしまう」

「なら、ユキに何かあった時は誰が君を守る?それに、次代の長はどうするんだ?」

 

当然、会議に次代の長について議論はされたはずだ。 長老らの了解を得たということは、長の目途はついているのだろう。

ユキは笑みを消し、目の前のカエデを真剣に見つめた。

「私が帰らなかった場合、次代の長は……あなたよ。カエデ」

「…………何?」

 ――会議が佳境に入り、否決とほぼ決まった時、ユキはこう提案した。

『もし私が消滅してしまったら、次代はカエデに引き継がせて下さい』

ユキの台詞に、その場にいた誰もが動揺を隠せなかった。

最初に口を出したのは、一番年かさの低い長老だ。

『ユキ様、カエデはまだ生まれて三十年しか経っておらん。いくら何でも無茶だ』

『いいえ。カエデなら、きっとやれます。皆さんも、あの子の力は、十分 ご存知のはずでしょう?』

 

長老達は押し黙る。 長であるユキの涙から生まれたカエデの力は、誰もが知るところだったからだ。 恐らく、ユキを除けば、カエデの力は精霊の中でぬきんでている。

力だけで考えれば、ユキの後釜を継ぐのは、カエデだ。

『私はここに帰ってくると、約束します。でも、私が約束を破ってしまった時は、カエデに。お願いします』

 

――議論は夜半を過ぎても続けられた。 これ以上の会議は無意味だろうとのことで、最終的に長老らの挙手により、僅か一人の差で可決されたのだった。

事の経緯を知ったカエデは、開いた口が塞がらなかった。

自分の知らない間に、そんな話がついていたことが衝撃だった。

「あなたが長になるのは、本当に万が一の時だから。安心して。私は必ずここに帰って来るから」

あんぐりするカエデに安心させようと、ユキは自分の手に触れて来る。

 

本当に、どうしてこうも分かってくれないのだろうか。 驚きの次にカエデの中には怒りに似た感情が湧き上がる。

――どうして、いつも、いつも

「……カエデ、どうしたの?」

カエデの様子がおかしいと感じたのか、ユキは顔を覗きこんでくる。

 

こうやって、いつも人のことを心配してばかりで、彼女は自分のことなど何も考えはしない。 それが、無性に腹立たしい。

「……君は、何も分かっていない」

「え?」

カエデは何の事を言っているのか分からないようで、ユキは首を傾げる。

 

自分はこんなにもユキを想っているのに、届かない。 今ほど、虚しく感じたことはなかった。

「待って、カエデ。ねぇ!」

ユキの隣にいるのが苦しくなり、カエデは木々の枝を伝ってその場から離れた。

ユキが何度も自分を呼ぶ声がしたが、振り返ることが出来なかった。