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「……それで、ユキは人間に協力するのか?」
「えぇ。私はそのつもりよ」
ユキは何の迷いもなくカエデの問いに頷く。 彼女は目の前に困っている人がいれば、たとえ自分とは何の関係がなくとも放っておけない。
以前助けた小鹿の件がいい例だ。
あの時、ユキは足を挫いた小鹿の霊を送り届けた後も、しきりに心配していた。 あまりにも心配するものだから、カエデが鹿の様子を見に行ってしまったぐらいだ。
カエデは基本的にユキの言う事には従うのだが、今回ばかりは彼女の決断には反対だった。
「ユキ。これは人間が勝手に起こす戦なんだ。オレ達には関係ない。 ――それに、先代が消滅した理由も知っているだろう?」
ユキの先代の長は、人々を思うあまり、自らも戦に出陣し、そして消滅した。 以来、この森の精霊達は人間の戦に一度も参加したことはない。 長がいなくなる、という森にとって最悪の事態を避けるためだ。
いくら長のユキが押し通そうとしても、簡単に長老らが了承するとは思えない。 通らないからこそ、会議は難航しているのだ。
それはユキの顔色を見れば、一目瞭然だった。
「……確かに、先代様は戦に巻き込まれて命を落とした。でも、私はそうとは限らないじゃない」
カエデがいくら説得しようとも、ユキの考えは全く変わらなかった。 あまりに固い意志に、こちらが根負けしそうだ。 しかし、これだけはなんとしても阻止しなくてはならない。
ユキがいなくなるなど、あってはならない。
「ユキ、君の気持ちは分かるが……」
カエデがさらに説得を試みようと、言葉を重ねるが、ユキは聞き飽きたと言わんばかりに立ち上がった。
「これから会議があるから、行くわね」
「ユキ」
カエデは呼び止めたが、ユキがこちらを振り返ることはなかった。
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森の中では、長門に住まう全ての長老と長のユキが集まり、不毛とも言える会議を延々と繰り返していた。
「もしユキ様が戦で消滅されたら、この森をどうするのか」
それが、ここ数日間で議論されている最大の問題だった。 先代長を人間の戦で失った時の恐怖が、未だ長老達の心に根を張っている。
長を失くした森は、簡単に統率力を失い、均衡が崩れる。 そうなれば、未練を残した魂も行き場をなくして彷徨い、果てには悪霊となる。
そして悪霊は辺りを穢し、草木は枯れ、森は死に、動物は穢れにさらされ絶える。
この森は終わりだ。
要するに、ユキがいなくなった場合、新たな長に誰がなるのか、ということなのだ。
長には全霊達を統率するだけの力と、人望が必要となる。 精霊は人間の涙や植物から生まれるため、人間のように数はそれほど多くはない。
その少ない人数から、長に匹敵するほどの力の持ち主となれば、ほとんど無に等しい。 そんな長に、一体 誰がなれるというのか。
会議も十回目となり、議論もそろそろ佳境を迎えている。 このままだと、人間達への助力は否決となってしまうだろう。
だがユキはどうしても人々を助けたい。 助けなければならない理由が、彼女にはあった。
そこで、ユキはずっと躊躇っていた、ある提案をした。
「では、こうしましょう――」
ユキの次の言葉に、長老達は息を呑んだ。