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SKY CAFE

 幾何学大学 ~幼き日に2~

   

うららかに桜咲き誇る幾何学大学の中庭では、気温の暖かさも手伝って、ちらほら桜が散り始めた。  保坂良(ほさかりょう)は、中庭のベンチに横たわり読書をしていた時のこと。  友人の一人が、良の名を呼んだ。

 

良としては、読みかけの本をもう少し読み進めたいと思っていたが、駆け寄る友人の為に仕方なく身体を起こした。

「良! 大変だ!」

 

はあはあ、と息を荒くしながら良に話しかける友人に、何事があったのかと聞いた。

「どうしたんだよ。そんなに慌てて」

「この大学に、十歳の特待生が入ってくるって話だ」

「十歳!?」

 

良は、思わず持っていた本を落しそうになった。  本日4月7日は幾何学大学の入学式だ。

 

新入生を迎えるその日は、盛大なセレモニーが開かれることになっている。

「十歳って、まだ子供じゃないか。何でそんなガキが特待生に……何かの間違いじゃないのか?」

 

良は、頭をバリバリ掻きながら友人に言った。

「だろ? だろ? でも、聞いて驚け! 入ってくる特待生はIQ170の双子だってさ」

「170?」

 

良は、IQ170の双子に興味を抱くと共に、悪意にも似た感情が心を侵食するのを感じた。

「そりゃ、是非顔を拝みに行かないとな!」

 

にやりと笑いながら、読みかけの本をぱんっと閉じた。

                   

 

幾何学大学の入学式では、必ずと言っていいほど、子供を手放すことになった親が泣く。  長年育ててきた子供を大学に取られる様なものだから、無理のない話だ。

 

学校は全寮制という形を取っており、研究内容が簡単に外へ流れない様、最善の注意を払っている。  従って、外出許可を申請しないと、自分の生まれ育った自宅へも帰ることが出来ない。

「さて、IQ170の子猫ちゃん達はどこかな?」

 

良は、新入生がいる筈の体育館へと軽快な足取りで向かった。  入学式は、大学の総合体育館で行われている。

 

校長、主賓等の挨拶が終わると、生徒達は思い思いに校舎内をカードパスで見て回ったり、 保護者との別れを惜しんだりと様々だが、たった十歳の子供なら当然後者であろうと、良は周囲を見回した。

   

しかし、予想に反して、IQ170は両親との別れを惜しむようなそぶりも見せず、人だかりが出来ている輪の中心にいた。

   

幾何学大学の放送部が、二人の子供にマイクを突きつけている。  どうやら、二人に目をつけたのは自分達だけではないらしい。

 

――まあ、IQ170もある双子なら話題性もあるし、放っておかなくて当然か。

「君達、幾何学大学初の最年少の学生になるけど、二人は将来何になりたいのかな?」

 

リポーターは、十歳の子供でも分かる様にとの配慮なのか、優しい口調で二人に問いかける。  まるで子供扱いだ。

「教育課程を終えたら、「宇宙科学部」を新設し、科学者になりたいと思っています」

 

双子の一人がそう応えると、周囲から「おおっ!」と、どよめきの声が挙がる。

「大学には、「自然科学部」や「生体医学部」があるけれど、そこでは駄目なのかしら?」

「基本的に学びたい事が違いますから――僕は、宇宙を造りたいんです」

 

――宇宙? 宇宙を造るだと?

 

双子の一人が言ったその応えに、ついていけないと思ったのか、周囲がクスクスと笑い出した。

「やっぱり子供ねぇ」とリポーターはコメントした。

「十樹! こんなのに真面目に付き合っちゃ駄目だ。構内見学に行こうぜ」

「桂樹……」

 

桂樹と呼ばれた双子の一人は、十樹と読んだ双子の一人の腕を掴んで、群衆を掻き分けて輪の中から出た。

(生意気なガキめ)

 

双子が良の目の前を通った時、双子と良は一瞬目があった。  良が造り笑いを浮かべて、軽く手を振る、  双子は、すぐにその場から立ち去った。  その際、すれ違い様に良は二人のフードに発信機を投げ入れた。

 

二人が体育館を後にした時、同期の#坂上昇__さかがみのぼる__#が良に声をかけた。

「おい、良、今の見てたぞ」

「見られてたか」

 

良は、白衣のポケットに両手を突っ込んで、笑いながら舌を出した。

「幾何学大学式の挨拶さ。猫の首には鈴をつけないとな。昇、お前も協力しろよ」

                 

「ねえ! ちょっと待ちなさいよ!」

 

二人がリポーターを振り切って体育館の外へ出た時、髪をポニーテールにした一人の少女に呼び止められた。  服の胸元には水色のリボンがついている。  自分達と同じ新入生だと分かると、二人は足をとめた。

「あなた達のお陰で、最年少記録を逃したわ」

 

少女は、さっくりそう言うと、二人に手を差し出した。  それが握手を求めている手だと気付き、十樹と桂樹は順に握手を交わした。

「よろしくね。私は遠野瑞穂って言うの。十三歳よ」

「よろしく。僕は白石十樹、こっちが弟の桂樹です」

「ふうん、流石双子、よく似てるわねぇ」

 

瑞穂は、二人を色々な角度からジロジロと見回していたが、構内を一緒に見学している内にどちらが十樹で、どちらが桂樹なのか分からなくなっていた。

「どうかしたのか?」

 

ピタリと歩みを止めた瑞穂に、桂樹は聞いた。  瑞穂は、二人の見分けがつかない自分自身に苛立った。

「ん、もう! 二人共、全く同じ服着てるから分かんないわっ!」

「はっ?」

 

桂樹は、二人の胸についているリボンを引きちぎり、一本の紐にした。

「あんた達は、周りの為にもこうした方がいいわよ!」

 

瑞穂は、二人の少し長い髪を、それぞれ逆方向にリボンで結ぶ。  十樹と桂樹は呆気にとられて、瑞穂のされるがままにしていた。

「はい、十樹君は右、桂樹君は左に髪を結ぶこと。いいわね!」

「はあ? 勝手に決めんなよ」

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