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SKY CAFE

 幾何学大学 ~動転~

 

特別病棟の「カーティス村」で、ゼンは自分の父親であるジム・カインとまき割りをしていた。

「父ちゃん、今日もいい仕事をしたなぁ」

「そうだなぁ、ゼンが手伝ってくれたから楽だった」

今日は一軒家に住む、近所のおばあさんの家の屋根が、風で飛ばされてしまい、その修理をしていた。元々、大工職人だったジムは、記憶を操作されても、自身が職人であった事を忘れてはいなかった。

-------いつか、父ちゃんの記憶が戻るといいな。

そう考えながら、ゼンはこの偽カーティス村で父親と過ごしていたのだった。

もうすぐ太陽が沈み、夜になる。

そんな時だった。

いつもの夕焼けよりも濃い、赤色の光線が、村の全てを赤色に染めた。

「何だ?これ------何をしてるんだ?」

ゼンはこの村が、幾何学大学によって造られた空間だと言う事を知っている。その異変に思わず、この村の出口である特別病棟の入り口の方角を見た。その時、背後にいたジム・カインが頭を押さえ蹲っている姿を見て、ゼンは慌てて父親の背に手を当てた。

「うっ・・・う」

父親は、その赤色の光線が光っている間、苦しんでいた。

「大丈夫か!?父ちゃん!」

「・・・・誰だ?ゼン、ゼンなのか?」

「何を今更言って・・・」

「ここは?俺は何を・・・」

ジム・カインは、辻褄の合わない事を言いながら、周囲を見回した。

「そうだ-----俺は神隠しの森に・・・」

少しずつ、噛み締めるようにジム・カインは記憶を探っていた。ゼンは、それを信じられない面持ちで、自身の父親を見た。

「お前は、ゼンだな・・・ゼン」

「------父ちゃん」

「大きくなったんだな。お前が生きててくれて嬉しい--------会いたかった」

そう言うと、震える手で、ゼンを強く抱きしめた。

         

「こんな事をして、上の連中が黙っていないぞっ!」

ブレイン朝日と白石十樹に脅された神埼は、記憶操作の解除スイッチから手を離す。

「やはり、上層部と神埼グループは繋がっているんですね」

十樹は神埼の言葉から推測し、口を出した。患者への記憶操作は、完全なる違法行為だ。 それを今まで放置していた幾何学大学の法案は、この国の法案に逆らっている。

「それが何だ!僕の記憶操作に関して言わせて貰えば、これは大学側が許可したことだ!」

「茶番ですね、自らが作った規則に、肝心の本人達が気付いていないとは。先日、私は国に確認をとりました。それは大学が勝手に許可したことであって、国の許可を得ていない。記憶操作は大学側の違法行為です」

「朝日も承認となります。どうやら倫理委員会で裁かれるのは、貴方達、上層部の様です」

ブレイン朝日は、坦々とした口調で言うと、神埼は、くっと唇を噛み締めた。

「これ以上、罪状を重ねたくないのなら、私の言う事を聞いて下さい」

十樹は静かにそう言った。

         

橘サトルは、育児研究部に呼ばれ、一度に三人の赤ん坊を任されていた。赤ん坊を背中と お腹で抱っこしていたが、余り手にかからない十樹の赤ん坊は、寝かされたままである。そこへ、亜樹も橘を手伝おうと、研究室を出て駆けつけた。

「十樹兄さんの子はお利口ね。小さい頃から性格があるみたい」

橘から、お腹に抱っこされた赤ん坊を受け取ると、顔つきからすぐに桂樹の子供だと気付く。橘から亜樹に手渡された途端に、泣き止んだのだ。

「亜樹さん、やっぱり女の人は凄い力を持ってますね。僕が抱いても全然泣き止まなかったのに・・・」

「桂樹兄さんらしいわ」

亜樹は半分呆れながら、高い高いをしていると、育児研究部の入り口が騒がしくなっていることに気付いた。学長、その他、上層部が訪れたのである。 学長は多くの取り巻きを連れて、神埼亨と白石十樹を目線だけで探した。

「神埼君や白石君は不在かね?」

「はい、先程、用があるとの事で出ていかれました」

研究員がそう言うと、学長はふんっと鼻を鳴らした。

「幾何学大学が始まって以来の、危機的状況に、本人達は随分呑気な様だな」

室内のどこを見回しても赤ん坊だらけの状況に、学長は警笛を鳴らす。本来なら成人した若者達が、軍事訓練を行う様子でも見れた筈なのだ。この状況では四季を攻撃し、占領する事も出来ない。学長は考えながら、壇上へ上がった。

「君達は、ここまで頑張ってくれた。しかし、個人の研究を疎かにする事がない様、我々はここにいる赤ん坊全てをある場所で引き取って貰う様、これから手配するつもりでいる」

その言葉に会場はざわついた。

「君達とは、もう二度と会わない場所で子を養育し、将来的に立派な軍人となるだろう」

橘と亜樹は、驚きながらそれを聞いた。同じ様に、赤ん坊の世話をしていた研究員達が、学長に向かって叫んだ。

「この赤ん坊は、私達の命と同等です!勝手に軍人にされては困ります」

周囲から「そうだそうだ!」と意見に賛同する者達が騒ぎ始めた。

「君達は赤ん坊に情がうつったのか?最初からここは「軍事用クローン製造部」だったんじゃないのかね」

学長がそう言うと、取り巻き達が、それぞれ手にしている赤ん坊を取り上げ始めた。橘と亜樹も例外ではなかった。取り上げられた赤ん坊が一斉に泣いた。 亜樹は思った。 こんな時、十樹や桂樹がいたら、この状況を上手く回避する方法を見つけ出してくれるのに、二人はいない。

「赤ん坊を返して下さい!」

橘が学長に詰め寄る。

「おや、君は橘君の家の息子じゃないか。君が小さい頃から、君には随分、世話になっていたよ」

学長が卑しい目で橘を見た。その一言で、橘はこの幾何学大学の学長こそが、十樹の言う敵である事が分かった。

「さしてIQの高くない君が、この幾何学大学に入学出来たのは誰のお陰か、もう一度良く考えてみたまえ」

「-------・・・っ」

橘は何も言えないまま、学長を取り巻くSP達の手によって、捕らえられてしまった。亜樹は、手にまだ残る、赤ん坊のぬくもりを感じていた。 それぞれが赤ん坊を抱いて育児研究部から出て行く取り巻き達を見ていた。その様子に泣き出す女性研究員もいたが、学長はそれに構わず、満足気に赤ん坊を見送っていた。

------しかし。

順調に見えた赤ん坊の運び出しに影がさした。

出て行った筈の取り巻達が赤ん坊を抱いたまま戻ってきたのだ。その理由は、学長の取り巻きを上回る大勢の大学警察だった。その手には小型拳銃があり、取り巻き達の頭に突きつけられた小型拳銃は、取り巻き達を従わせるには十分な威力を持っていた。

「何だ!君達は!」

「貴方を二一七号、児童保護条例違反で拘束します」

大学警察は学長に向かってそう言うと、学長自身に銃口を向けた。反射的に学長は両手を挙げる。

「赤ん坊を元いた場所に戻して下さい」

そう言って現れたのは、白石十樹と桂樹だった。二人は万が一の事を考えて、予め保育器に盗聴器を仕掛けていたのである。十樹は、数日間の学長代理殺人事件の時に約束を交わしていた。大学警察に大学側の不正行為を調べ上げるよう依頼をしていたのである。 これだけ多くの大学警察が動いたのは、大学の開校以来、初めての事だった。

「神埼亨が全てを話しました。学長、貴方に国から逮捕状が出ていますよっと」

桂樹は学長の取り巻きから、自らのクローンを取り上げた。それを見て、亜樹は安堵のため息をついた。