Now Loading...

Now Loading...

SKY CAFE

 幾何学大学 ~幾何学大学の事象~

幾何学大学の天候は、日常的に晴れたり曇っていたり、台風、雨、みぞれと季節ごとに変化して行くのだが、最近の事象は少し違っていた。この所、天候は目まぐるしく変化して、傘が無ければ、おちおち外出する事も出来ない。幾何学大学の敷地内は、その高度な技術力を駆使して何とか通常の季節を維持しているのだが、その他の住宅や、ビル街等は、度々のスコールや雷で、洪水や停電等、交通機関は麻痺し、人々はテレビの情報に頼るしかなく、皆が不安を感じていた。

『-----このままでは、世界が滅んでしまう』

そんな噂までも、人々は口にするのだ。

原因となる、その全ては幾何学大学にある。 この世界の天候を管理している、衛星「四季」が、幾何学大学の天候を操作し、この地に雨を降らせているのだ。 巨大衛星「四季」の内部を知るものは、幾何学大学にはいない。だが、この衛星を、幾何学大学の一部としたい上層部は、「四季」に対し、戦争を仕掛けているのだ。攻撃さえしなければ、天気は通常通りのサイクルで流れていくのだが、幾何学大学は「四季」を手に入れることに執着し、今も攻撃を続けている。

姿の見えない敵と、幾何学大学は戦っているのだった。

        

「亜樹さんは、強いですね」

「何故?」

宇宙科学部の研究室で、橘は、同じ実験体であるのも関わらず、明るく振舞う亜樹を見ていった。

「僕は、つい先程まで、実験体である事を知らないままで育ってきました。亜樹さんは、自分の事を全て話したのに、気丈でいられる-----強い方です」

「そうなのかしら?私の場合は、その間の記憶がないからだと思うの」

「いいえ、亜樹さんは強いです」

橘は、造り笑いを浮かべた。

「また、少し悲しい顔をしてるわ」

「えっ!?ああ、すみません、僕は-----」

亜樹に、顔を間近で覗き込まれて、橘は顔を赤くした。

「忘れないで-----貴方が、悲しんでいるのを見て、悲しむ人がいるって事を忘れないで」

橘は、泣きそうな顔をしていたのかも知れない自分を叱り付けて、「はい」と小さく返事をした。

        

その時、ふいに研究室の扉が開いた。インターフォンも鳴らないと言うことは、この部屋の主が帰って来たのである。

「あっ!橘、何してんだよ」

十樹と共に帰ってきた桂樹は、橘と亜樹を見て、そう言った。

「いえ、これは・・・」

至近距離で、亜樹と向かい合っていた橘は、どぎまぎしながら、十樹と桂樹に弁明した。

「何でもないんです。亜樹さんは、僕を慰めようと・・・」

「亜樹」

「お兄ちゃん達、橘さんは何もしてないわよ」

「無事でよかった・・・」

十樹は、ほっと息をついた。

「十樹先生、亜樹さんの言う通り、僕は何も-----」

「そうじゃない。ここに亜樹がいる。亜樹が生きてる。それだけで十分だ」

        

暗い大学の一室で、一人、学内のメインコンピューターへの接続を試みている男がいた。

-------白石亜樹が生きている?どういう事だ。

理事会のメンバーである男は、宇宙科学部で、自らその姿を見てしまったのである。

「そんな馬鹿なことはない」

コンピューターに映し出された記録には、先程の結果と同じように、白石亜樹の在籍が示されている。

-------私が殺した筈の女の子が。

「何故だ!?」

バン、と机を叩いて、男はぶつぶつと呟き始めた。まだ幼かった白石亜樹は、奇跡的に命が助かったと言う過去が、プロフィールに記録されている。

「私は、悪くない・・・私は悪くないぞ」

しかし、もしも、彼女が私の顔を見て思い出してしまったら、自分はひき逃げ犯として捕まってしまう。今まで築きあげてきた実績も全て崩れてしまうだろう。そんな事になったら、家族は、友人は。

------彼女の存在を許す訳には行かないのだ。

男は、キーボードを叩き、あるサイトへと通じるページを開いた。そしてそれは、学内で極秘とされている「暗殺チーム」へと繋がるサイトだった。

        

「リル、恥ずかしがって隠れてないで、出ておいで」

桂樹の後ろで隠れていたリルに、十樹が話しかけると、背後からリルが、ぴょこんと顔を出した。

「リル!」

すると、カリムが慌てて、リルの前に飛び出した。

「どこに行ってたんだよ!心配したよ」

「・・・・誰?」

「え・・・?」

リルに、不思議そうにそう問われて、カリムは首を傾げた。リルは、桂樹に「この男の子誰?」と尋ねている。何も言えずにいるカリムに、桂樹は言った。

「リルは記憶を消されちまったんだ」

「な・・・なんで?」

「それは、オレ達にも分からない・・・だが、リルは、実験体の服を着ていたからなぁ」

頭をポリポリ掻いて、桂樹が言う。幾何学大学では、日常茶飯事とでも言うように、桂樹の言葉は軽かった。

「そんな事・・・出来る訳が・・・。ねぇ、リル、オレの事は覚えてるよね」

「分からない・・・分からないよ・・・でも、何で涙が出るんだろ?分からないのに」

ポロポロと泣いて、リルはカリムを見て言った。

「帰りたい・・・帰りたいよお」

「そうだね。リル・・・そうだね」

カリムは、リルの頭をくしゃりと撫で抱えて、リルを慰めた。

そして-----

「桂樹」

「何だ?」

「そんな簡単に、この状況を見てられるって事は、知ってるんでしょ?リルの記憶を戻す方法」

「まぁな」

その言葉に、二人は桂樹を見て、リルは、ぴたりと泣き止んだ。

「橘くん・・・少し亜樹を見ていてくれないか?」

十樹は、そう言うと、桂樹は何か分かったかの様に、げっと呟いた。

「リルを連れて、神埼の所へ行こう」

「・・・・やっぱり」

桂樹としては、なるべく神埼の所へ行きたくはない。神埼の所へ行くと、話術で懐柔されそうで嫌なのだ。

「十樹、オレが留守番するから、皆で行ってきてくれ」

「盗聴器が外れたばかりの橘くんに、神埼の所へ行け、と言うのか」

「お前はなぁ・・・そんな風に、正義感で身を滅ぼすなよ」

心底、神埼の所へ行きたくないと言う桂樹に十樹は呆れた。

「お前は、もう少し情に厚くなろうか」

と、十樹は、桂樹の服の襟を掴んで、ずるずると引きずり研究室から出て行った。

「兄さん達、どこへ行くのかしら?」

何も知らない亜樹が、橘に問う。

「僕の、憎むべき相手の所へ、ですかね」

「あら、憎んでる時間が、勿体無いわ」

「それだけ、ポジティブになれたら良いですね・・・まぁ、僕もなるべく考えないようにします。お茶にしましょうか?亜樹さん、何がいいですか?」

「ロイヤルミルクティ」