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夕暮れの公園で、小さな二人は地面に家の設計図を描いていた。
「えっと、ここが紗菜の部屋でね、こっちがパパとママの部屋」
塩谷陸は、地面に落ちていた棒切れで、紗菜の描く夢の家を見て、わくわく胸を躍らせた。
「それで、この広い部屋は、紗菜と陸の部屋ね」
「うん! 紗菜、約束だよ」
二人は、思い切りの笑顔で笑いあった。
☆
-------幼い頃に交わした約束だった。それなのに。
「あんたなんて大っキライ!」
彼女は陸の手を振りきり、そのまま走り去ってしまった。秋元紗菜から、そんな宣告を受けてしまった塩谷陸は、思わずこれまでの行動を振り返る。
(ああ……オレがいけなかったのか? あいつのリコーダーを失くしたとか言って、実は大事にとってある事とか、給食で出た、あいつの好物のプリンを食べた事とか)
好きな子をいじりたくなるという、小学生の典型的なパターンだという事に陸は気付いていない。
(そう言えば、あいつは甘いものが大好きだった-------やっぱり給食のプリンが原因か)
陸は、今までの行動を反省しながら、中学校からの帰り道で見つけた、道端に咲いている花を摘んで花占いをしてみた。
「スキ、キライ、スキ、キライ………スキ、キライ…」
我ながら、女々しいことをしている自覚はあった。通りすがりの女生徒が「何?あの人」と、ひそひそ話をしている。それでも何かに頼りたい心境だったのだ。
「ああ………」
花占いの結果、手元に残ったのは、キライと答えの出た花びら一枚。地面に手をつき、陸はがっくりとうな垂れた。
☆
一晩、悶々と考えた結果、翌日、陸は勇気を振り絞って紗菜に声をかけた。しかし、紗菜はちらりと陸を見ただけで、スタスタ先へ行ってしまう。オレは仕方なく、中身の寂しい財布と相談した上でこう言った。
「紗菜、クレープ奢ってやるよ」
「えっ本当?」
すると、紗菜は振り向き、ぱああと輝かしい笑顔を陸に向けた。
「一体どういうこと? 貧乏な陸が、クレープ奢ってくれるなんて」
彼女の機嫌はクレープ一つで直った。陸は紗菜の胃袋を掴んだ男になった。
☆
クレープ屋に立ち寄ると、紗菜はメニューにある中で一番高いクレープを選び、陸の寂しい財布の中身に 秋風を吹かせた。しかし、幸せそうにクレープを口に運ぶ紗菜を見て、まぁいいか、と自然と笑みが浮かぶ。
「あ、紗菜、頬に生クリームついてる」
「え…………?」
紗菜の頬についているクリームを、指で拭いてやろうと手を伸ばすと、紗菜は顔を赤らめた。
(------ん?)
「お前、顔赤いぞ? 熱でもあるんじゃ------」
陸は額に手を当てて熱を測ろうとした。が、紗菜は、それをヒラリと交わして立ち上がった。
「な、何でもない! 何でもないよ! じゃあね陸」
紗菜は、残ったクレープを口に押し込んで、一人で帰ろうとする。
「あっ、オレ送ってくよ」
「大丈夫、一人で帰れるから」
☆
「びっくりした……」
家に帰り、紗菜は玄関のドアを背に、はやる心臓を落ち着かせようとした。
-------まだ、どきどきしてる…
さっきの陸の指の温度が、まだ頬に残ってる。
(もう、志保があんな事言うから、意識しちゃったじゃないの)
☆
それは、今日のお昼休みに友人達と交わされた会話にあった。
「ねー、紗菜と陸って仲良いよねー? 付き合ってるとかないの?」
「えー、そんな事、全然ないよ」
「そうなの?」
「陸は単なる幼馴染だよ」
「私は、陸って紗菜の事がスキだと思うなー」
「な、何言ってんのよ! 大体あいつはいつも意地悪ばっかりしてきてさ、昨日だって髪をぐしゃぐしゃにして」
折角、朝時間をかけてセットした髪を、陸はぐしゃぐしゃにされ、怒っていたことを思い出す。女にとって、髪がどれだけ重要なものか、陸は女心を分かっていない。
「そう言われてみればそうか。陸ってどっか挙動不審っていうか、変な奴ーって感じ」
「そーそー、紗菜には似合わないっていうかー」
友人二人は、紗菜に共感して陸の悪口を言い出した。しかし、聞いているうちに紗菜は何だかいたたまれなくなった。
「そ、そんな事ないよ。陸は不器用だけど、お年寄りの手を引いて横断歩道渡ってたり、少年野球チームで、子供達に野球教えてたり、私の出来ない宿題だって手伝ってくれたりするんだから------」
「紗菜?」
突然、陸をフォロー発言をする紗菜に、二人は不思議そうな顔をした。
「…………」
紗菜は何も言えなくなった。
どうしてだろう。他の人に陸の悪口を言って欲しくない。