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SKY CAFE

 星守りの塔 

キキー!

 

甲高くなる車のブレーキ音と、周囲にいた人々の悲鳴。ぐるりと視界が回る。それがタスクの見た最後の景色だった。

 

人は死んだら星になるなんて、嘘のような冗談の様な話。まさか、それが本当だとは思わなかった。

「なあ、ここは一体どこなんだ」

 

気がついたら、タスクは大きな筒状のドームの床に倒れていた。塔の天井はガラス張りになっており、今にも星が降りそうな程の絶景の夜空だ。その建物の中央に、大きな壺を船のオールのような棒を持ち、何かをかき混ぜている少女の姿があった。推定五、六歳と言った所か。

「ここは、天上と地上の狭間。魂が行き着く天上への中継点。そして、私の名前はサラ・ホワイト。代々受け継がれている、この星守の塔の番人よ」

「は?」

 

いきなり少女にそんな事を言われても訳が分からない。タスクは目覚めたばかりなのだ。タスクは立ち上がり、少女が忙しく手を動かしている「壺」の中を見た。壺の中は宇宙の様に青く澄んでおり、金平糖のような色とりどりの星が渦を巻いている。

「星守の塔?・・・これは何なんだ?」

「触らないで!」

 

タスクが壺に触れようとすると、初めて少女は振り向いた。見ると大きな青い瞳にツインテールの髪を腰の長さにまで伸ばしている。まるでフランス人形のような顔立ち。何故、言葉が通じるのかが不思議だ。

「ああ、触らないで、貴方はこの壺に吸収されて、そのまま星になってしまう。それじゃ駄目なの」

「星?」

 

サラの言う事が何を意味しているのか分からず、タスクは首を傾げた。

「貴方は現実で交通事故にあって星になったの。さっき、星から生まれたばかりだから、何も分からなくて当然。 -------でも」

「星って?オレはまだ死んでない」

タスクには少女が悪い冗談を言っているようにしか聞こえなかった。今自分が生きているというのに貴方は死んでいると言われたところで、信じる人はいないだろう。タスクの言葉に、少女は頭が痛そうにこめかみを押さえる。

「自覚がないって、何て厄介なのかしら」

 

サラと名乗った少女は、ため息をつきながら、タスクの額に手を当てた。ポウっと温かい光と共に、タスクの脳裏に生前の記憶が映し出された。雪がちらつく中、一つの道路にやけに多くの野次馬達が集まっている。彼らが視線を向けている先の道路には、車のガラスが粉々に砕け散るという無残な光景が広がっている。救急車のサイレン。人々の心配そうな話し声。そしてその真ん中には、ピクリとも動かない自分の姿。

「な、なんだよ。このビジョンは・・・こんなのウソだ!」

 

額にあったサラの手を振り払って、タスクは塔の外へと飛び出そうとした。  だが、扉を開けたところで、それを思いとどまった。

「うわっ」

 

タスクが踏み出そうとした地面があるはずの場所に、深い深い宇宙空間が広がっていた。あと一歩踏み出せば、崖から宇宙空間に放り出されてしまう。恐らくここから落ちれば確実に命はないと言っていいだろう。タスクは思わず声を挙げた。 

「ここが地上でないのなら、オレを地上に戻してくれ」

「それは出来ない相談ね。でも、貴方の星が壺から飛び出てきた理由は・・・何か未練があるのね」

「---------」

 

未練なら、当然あった。

 

オレは、長年幼馴染だったリンに告白したばかりだった。もうすぐ高校の卒業式。これから、オレもリンも、それぞれの道を歩んでいく。だから、この想いの決着をつけるために。

「オレはリンが好きだ」

 

校舎裏にリンを呼び出して、告白した。リンは眼を大きく開け、頬を赤らめてタスクを見た。

「びっくりした・・・・タスクがそんな事言うなんて、でも、校舎裏に呼び出すって、果たし状かと思ったよ。字も汚いし」

「ほっとけ」

 

リンはお腹を抱えて笑った。

「笑いすぎだろ・・・お前とは、このまま終わりにしたくないんだ」

「返事は、今日じゃなくてもいいかな?」

 

リンは言った。

「じゃあ、明後日の日曜、城山公園の入り口で、OKなら来て欲しい」

「分かった」

リンは、夕日に負けないぐらい頬を赤く染めてそう答えた。