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ある一部の地域では人間の目には見えない者が存在する。彼らは植物や生き物の涙から生まれ、形を成す。 そのもののエネルギーが強ければ強いほど寿命は長く、そして力も強い。
――その力の強い者を『精霊』と呼んだ
「すみませんっ! ごめんなさいっ」
森のどこからか、弱々しい声が聞こえる。
「謝れば許されると思うなよ! 勝手にオレ達の領土に入りやがって!」
その弱々しい相手に乱暴な声が重なる。彼らは子供の背丈をしており、真夏ではないというのに、 見るだけで身震いしてしまうような薄着の甚平を着ている。
「本当にごめんなさい! オレ達、君達の領地だと気付かなかったんだ!」
「嘘つけ!」
弱々しい相手の腕を掴み、相手は殴りかかろうとした。
――その時
「やめろ! お前達!」
子供達とは比べ物にならないほどの威圧感のある声が動きを止めさせた。おそるおそる背後、斜め上を振り向く。
「カエデ様!」
その少年を知る者達は、安堵したような笑みを浮かべた。 カエデと呼ばれる人物は、やや長めの黒髪を風になびかせ、涙色の鋭利な瞳を子供達に向けている。
着ている服は子供達とあまり変わらないにもかかわらず、どこか他とは違う特質なオーラを放っていた。
15、6歳の見かけをした少年は、登っていた木から飛び降りる。 そんな動作からも、見とれるものがある。
「カエデって……まさか隣町の長……っ」
先程まで強気だった子供達の顔色は青へと変色しつつある。 隣町に住む者なら、名前ぐらいは知っているはずだ。
「事情は聞いた。オレの仲間がお前達の領地に勝手に入ってしまったことについては、オレが詫びよう。 ……だが、こいつらに手を出すなら、この町の長として黙っていない」
隣町の子供達は言葉も出ず、ただ萎縮するばかりだった。 しばらくすると、子供達はその場から逃げるように去って行った。「覚えていろよ!」の捨て台詞を残して。
「カエデ様ー!」
向こう側から、隣にいる子供達とはまた別の幼い声が響いてきた。 駆けてくるのは、髪を綺麗に切りそろえた、少女のように見える少年だった。
「シキ」
「何やっているんですか! カエデ様! 長老方の会議がもう始まってしまいますよ!」
「オレの焼き芋は?」
「そんな物は後です! ほら、行きましょう」
少し前まであった威圧感はまるで消え、カエデはシキと呼ばれる幼子に首根っこを掴まれて引きずられていった。
カエデに助けられた子供達は、その様子を唖然と見ていた。
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「カエデ様、人に化けて食べ物を買いに行くのも、大概にして下さい」
「この菓子うまいぞ。お前も食うか?」
「いりません! 全くもう。職務怠慢で町が傾いたら、ユキ様に顔向けできませんよ」
緑豊かな地が残るこの地域では、人の涙や植物から生まれた精霊たちが守護する森がある。 実際に住む町の人間達には知る由もないことだが、古くから精霊たちはお互いの領土を取り決め、長をたてることによって、そこに集う霊達を統率しているのだ。
中でも圧倒的な力を誇ったのは、カエデの前の長、ユキである。女性としては圧倒的な力で数百年この町を統治し、霊達の絶対的信頼を持った人物。それと同時に、自分の世話を見てくれた恩人だ。 この地域一帯で知らぬものはいない。
だが現在、ユキは――
「そうだな、気をつけるよ。……だからいい加減、放してくれないか?」
未だにずるずると引きずられていることに不満を感じたカエデは、シキに提案する。
「駄目です」
即座に却下された。